**まだ買える在庫品のお知らせ**
**筆記具の社内生産終了のお知らせ**
2023年の1月いっぱいで工房内でのペンの生産を終了します。
ペン工房キリタの母体である桐平工業(株)は、昭和二十二年創業の、高級筆記具のOEM製造委託先(下請け)工場でした。
今から19年前の2004年。大口顧客がギフト向けの商材としての筆記具から撤退していき経営が苦境に立たされたとき、何とか従業員や、外注先の協力工場のみんなの生活を守りたい、そんな思いで下請け一辺倒だった状態からオリジナル製品を直販する「ペン工房キリタ」を立ち上げました。
しかしここ数年で、桐平の内外の状況は大きく変わりました。
まず社内的には職人の高齢化と設備の老朽化が進みました。職人も70歳をとっくに越え体力も衰えてきました。設備についても、機械の多くは老朽化し、いつ止まるか分からない状態です。
また外注先についても、ここ数年で、頼りにしていたプレス屋さん、メッキ屋さんや塗装屋さんなどが次々と廃業していきました。
社内外のこのような状態を考慮し、この春、桐平工業では最後の職人が引退する運びとなり、ペン工房キリタとしても一旦ここで区切りを付ける事となりました。
閉店セールなどは行わずに、淡々と販売を続けて終わりたいと思っています。それでも
1月中はペンの注文が集中することが考えられますので、一度にカゴに入れられる注文数の制限をさせていただきます。
部材在庫が終了してしまった製品は、1月末を待たずに完売となりますが、ご理解ご了承ください。
キリタの生産する筆記具は手作り工芸品ではなく工業製品です。本体軸は真鍮のプレス品又はパイプ品で、プレス屋さんパイプ屋さんに作ってもらいます。天冠や口金などの部品は、真鍮棒から旋盤で作り、挽き物屋さんに頼みます。メッキはメッキ屋さん塗装は塗装屋さんに頼みます。
芯やクリップもそれぞれ専門の町工場があり、印刷や箱も小さな工場で数人でやっている会社から購入します。キリタのペンは町工場の集合体なのです。
最も信頼していたプレス屋さんの柴田製作所さんは、高齢で後継者がいないため廃業しました。それを皮切りにメッキ屋さんの東京電鍍さんは単価が安すぎて倒産。アルマイト屋さんの三森電化さんは職人を確保できず廃業しました。
パイプの切断屋さんである安江製作所さんは癌で、印刷の周和さんは脳梗塞で倒れて廃業。筆記具塗装の最大手だった千代田塗装さんは、老朽化設備を建て直す目処が立たない、借り入れをして設備を直しても、今後の安定的な受注が見込めないことから結局廃業しました。
次々と起こる町工場の廃業倒産を見ていて、なんだかとてもやりきれないのは、メーカーの値下げ圧力に反発し、堂々と値上げを宣告できない会社から潰れていく感じがすることです。
何処かの協力工場が廃業するたびに別の町工場を探すのですが、大抵はもともと長くお付き合いのあった工場に比べて品質は下がり単価は上がる。そして協力工場の廃業が次々起こると、工場探しのもぐら叩きで、正直疲れ果ててしまいました。
2017年に一旦会社を縮小し、残った部材のやりくりと手作り品で工房を続けてきました。唯一残っていたベテラン職人の加川が、2023年2月の頭で75歳となります。これまでその職人技で、様々な手作りペンを作ってくれていました。
しかし千葉の東金にある自宅から毎日往復3時間半かけて通うのが、さすがにもうきつい。話し合った結果、加川には75歳の誕生日まで出社していただき、 そしてキリタそのものも、そのタイミングでペンの新規生産を終了とすることにしました。
加川退任後も生産を続ける可能性については、町工場ネットワークの劣化もあり、やはり品質の低下も懸念されます。また私自身も今年還暦を迎えますし、息子は町工場は継がないと言っているので後継者もいません。そこで思い切ってここで幕を下ろすことを決断しました。
若手の職人を育てられなかったのは、ひとえに私の力不足でした。 若手に、職人としてやっていきたいと思わせる魅力的な職場、待遇を作れなかった。それが心残りです。
昭和22年の創業以来、3代75年続いた筆記具製造を、私の代で終了することには、正直忸怩たる思いもあります。ただ、倒産したわけではありませんし、会社としてはまだ存続します。次代が継がないためにいずれは消えるにしても、亡き父にも許してもらえるかと思います。
2月以降は、替え芯、本革ペンケース、及び残ったペンの在庫品のみの販売となります。
ペンも種類によっては在庫がしばらく残る物もありますので、探してみてください。
修理依頼については、可能な限り対応いたしますが、万が一私の技術で直しきれない場合は、修理不可としてお戻ししなければならないケースも発生するかもしれません。
大変ご迷惑をおかけいたしますが、なにとぞご理解ご了承くださいますようお願い申し上げます。
長年にわたりご愛顧をいただき、本当にありがとうございました。
令和5年1月5日
ペン工房キリタ3代目 桐田平八
ここから下は、ただの負け犬の遠吠えになります。(恥)
高度成長期に日本では町工場が急速に増えました。それは、一言でいえば、町工場がもうかったからです。物を作り出す仕事が必要とされ、工場経営者はとても羽振りが良かった。それを見た工場の職人が、俺も社長になってやると独立して小さな町工場を作り、景気拡大の波に乗り町工場も潤った。
いつの頃からか「価格破壊で庶民を応援」などと言って中国製品が大量に出回り、日本人の多くはとにかく安いものしか買わなくなった。デフレマインドでメーカーは下請けを叩き、中国価格と比較して値下げを要求。テレビで日本の職人技術をもてはやすくせに、実際はお金にならない。
ごく小さな町工場が多いのが日本の特徴と言われるが、作れば売れる時代なら良くても、右肩下がりの時代には規模の小さい所は厳しい。社長自ら現場作業に忙殺されてしまえば、いろいろ考えて値下げ圧力に抗したり新規事業を起こせる所は、実際にはほとんどないだろう。
結果、多くの工場労働者が貧困化して、金融などのお金を右から左へ動かす会社の社員の方が、はるかに高給取りになっている社会になった。
今、町工場の現場では日本人を雇えず、安い工賃で外国人労働者を入れるところがすごく増えている。日本人の若者には町工場は環境も待遇も魅力が無いのが現状。これでは町工場の跡取りは生まれない。
そして今、後継者のいない町工場がどんどん廃業していっている。町工場のネットワークで製品を作ってきたキリタのビジネスモデルでは継続ができない。
工業製品としてのペンを作るには相当な数量が生産しなければならず、世界に販路を持つメーカーしか生き残れない時代。現代のグローバル世界ではそれは自然なこと。 小さなメーカーが淘汰され、より大きな購買力を持つメーカーに絞られていくのは、自然なことで悪い事ではない。
ネットで物が売れる時代には、よりとんがった製品を作る新しいメーカーも生まれやすい。音響機器や扇風機などで新興の家電メーカーなども増えていても、多くは自社工場を持たないファブレス経営で生産地は中国や東南アジアだ。
確かにファブレス経営は今もてはやされている。でも、国内に自社工場を持ち日本人を雇用している会社は増えない。(円安と海外工場の人件費増で今後はどうなるか。)
別に国際分業が悪いわけではない。アップルだってファブレスでiphoneを作っているのは海外の企業だ。単に国際分業が進み、国内の町工場が減り、町工場を集めて工業製品を生産するキリタのビジネスモデルが合わなくなったので消えていく、それだけのこと。
個人で木軸の手作り万年筆などを工芸品的に作る工房は増えています。しかし多くは木工職人で本体は作れるが、内部機構や金属部分は輸入の「手作り筆記具用部品セット」を使って少量で仕入れています。台湾のメーカーがアメリカの手作り愛好家向けに作っているキットで、そのためどこも同じようなデザイン。そんな風にはなりたくないしね。