先週まで、オート社の結城工場での取材を元に、ボールペンのペン先の
製造工程について解説をしてきました。
せっかくですから快く取材に応じていただいたオートさんについても、
紹介させていただいて、チップについての稿を終わりたいと思います。
オート株式会社は、東京都台東区に本社を置き、創業は大正8年。今年(2012)で創立93年の超老舗企業です。
三菱やパイロットなど他の大手筆記具メーカー並みの知名度はありませんが、その長い歴史の中で数々の先進的発明をして、日本の筆記具業界にその足跡を残してきました。
日本でボールペンの製造が始まったのは太平洋戦争後で、それ以前の筆記具メーカーは、大体万年筆かシャープペンまたは鉛筆を作っていたところが多いようです。
一般にボールペンは、1943年にハンガリー人のビーロによって発売され、第2次大戦後にアメリカを中心に世界に広まりました。
日本では進駐軍が持っているボールペンを手に入れた万年筆製造者らが生産を開始しましたが、最初はなかなか良い物ができないでました。
そんな中、1949年(昭和24年)にオートが鉛筆形の木軸ボールペンを発売しました。日本で最初のボールペンメーカーはオートなのです。
1964年(昭和39年)には世界で初めて水性ボールペンを発売。油性ボールペンの重い書き味を解消し、すらすらと気持ち良く書ける書き味で多くのファンを獲得しました。
現在でもオートの水性ペンのレフィールは、日本における水性ボールペンのスタンダードで、キリタを始め多くのメーカーも採用しています。
ここ数年はゲルインクに押されて、キャップをしないとインクが乾いてしまう水性インクは苦戦していますが、最近オートでは乾きにくい水性芯も開発しています。
1978年(昭和53年)初めてグリップゴムを握り部分に付けたボールペン「グリッパー」を発売し、大ヒット商品になります。
これは当時キリタも下請けとして作っていました。子供の頃、こっそり工場から持ち出して学校に持って行ったりしていたのを覚えています。
1999年(平成11年)油性ソフトインクと極細のペン先を組み合わせたボールペン「ニードルポイント」を開発、発売。
このボールペンでは、製図用のシャープペンのように、ペン先が細長いパイプ状になっています(実際は一体形成)。
それによって筆記時に広い視野を確保してペン先が見やすく、定規を当てて線を引いたりするにも便利で、根強いファンをつかんでおり、オートと言えばニードルポイントと言うくらい、現在のオートの代名詞になっています。
オートでは、水性ボールペンのレフィルと同規格・統一形状で油性のニードルポイント芯も発売しており、同じペンを使って水性ペンにしたり油性ペンにしたりと組み替えて使用することができます。
最近では自分の好きな芯を組み込んで作るペンが各社から出ていますが、それらはあくまで事務用の500円ペン。2-3千円クラスのペンで別タイプのレフィルに組み替えられるのは、私の知る限りオートだけです。
国産初の量産ボールペン、世界初の水性ボールペン、世界初グリッパー、そしてニードルポイントと、改めてこうして見ていくと、オートが他社と一線を画す先進性と独自性を持った会社であることが分かりますね。
また1981年(昭和56年)には、綴じ穴を空けることなく重ねた書類を綴じられるクリップの一種「ガチャック」を発売。同社を代表するヒット商品であり、このタイプの文房具の一般名詞にもなっています。
オートの本社は台東区の浅草橋にあり、東京東部のこの地域は、昔から文具系のメーカーが多い場所です。(文具系の町工場は隅田川を渡った反対側の墨田・葛飾に多いですね。)
そしてオートの工場は茨城県結城市にあり、ここで今回紹介してきたボールペンのチップも作られています。
これからも、キリタの水性ボールペンレフィルの供給元として、宜しくお願い致します。
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