キリタのオリジナル製品であるG2ダイアカット8角ボールペンの開発秘話をご紹介します。
この製品の特徴は、細身でありながらしっかりとした重量感、鉛筆の6角形とは異なる8角形が手にフィットする感覚、そして角をダイヤでカットした縦ラインの美しさです。
実はこのモデルにはベースとなった製品が過去にあり、キリタ版はその製品とかなり近いデザインとなっています。
その製品は、ある服飾ブランドのOEM依頼で製造していた製品なのですが、そのブランドは現在筆記具の販売から完全に撤退しています。
大手の筆記具メーカーからのOEM依頼の場合は、デザインから図面までメーカーから来ることが多いので、廃番になったとはいえそのデザインを転用する事など絶対にできません。
ただこの製品については開発自体をキリタで行ったので、そのブランドが筆記具そのものから撤退していることもあり、そのデザインの一部をキリタのオリジナルとして再利用しています。
まあ、この製品の他にも色々なブランドのOEMをやって来ているのですが、それらの製品の中でも特にこの製品をキリタのオリジナルとして復活させたのは、この製品がこのまま埋もれさせるのが惜しいと強く思わせる傑作だからです。
そこには、このペンを使う利用者からの視点と、作り手サイドからの理由の両方があるのですが、それを来週から順番に解説していきます。
先ずこのペンについて良く聞かれるのが、どうして鉛筆のように6角形ではないのかと言うことです。
それははっきり言って6角より8角の方が持ちやすいからです。ペンは3本の指で保持されるため、単純に考えると3角形または3の倍数である6角形にすれば指がフィットするような気がします。
しかし実際には3本の指は、ペンの円周上を均等に3分割に割り振られて握る訳ではありません。
ペンが6面に分割されていたとしても、人によって、人差し指が第1の面、中指が第3の面、薬指が第5の面に来るとは限らない訳です。
実際に私などは、鉛筆を持つと、人差し指と中指はそれぞれ第1面と第3面に来るのですが、薬指は第4面と第5面の境の角に当たって、いつも痛い思いをしてきました。
たまに三角軸のペンもありますが、私が握ると必ず中指が、第2面と第3面の間の角に当たって、痛くて使う気になりません。
長時間鉛筆を使う学生が、指が痛くなったりタコができるのは、6面だとどうしても何処かの角が指に痛いからと言うのが理由の1つ何じゃないかと思っています。
私の場合は長時間鉛筆を握ったことがなかったので、そんなことにはついにならずに大人になってしまいましたが。(笑)
6角形だと何処かの指(多くの場合は薬指)が角に当たって痛いのに対し、それが8角形だと、それぞれの指がそれぞれ何処かしらの面に収まって、座りがよく、ペンが指にフィットします。
仮にその人の握りの癖で、どうしても何処かの指が角に当たるとしても、8角形の角は6角形の角ほどとがっていないので、痛くなりにくい。
(さらにキリタのG2の場合、それぞれの角を少しだけカットして、とがらないようにしています。)
これが10角形まで行くと、1面ごとの面積が小さくなってしまい、面に指がフィットする感覚に乏しくなってしまいます。
面で押さえる感覚をケープしつつ、どんな握り方をする人でもそれぞれの指が収まる面を探し当てられるのが8面体なのです。
G2ダイヤカット8角ボールペンのもう一つの特徴は、8面体本体軸の8つある角をダイヤモンドカッターでカットしていることです。
なんだか製品の特徴がそのまんま製品名になっていて、ネーミングのセンスが無いのが丸わかりですね。(汗)
G2の本体軸は、内側が空洞のパイプの形をしていますが、作り方としては一般的なパイプ製法ではなく、深絞りと言われる特殊なプレス製法で製作されています。
深絞りについてはいずれ詳しく説明しますが、簡単に言うと板を突いて凹ませていって作る製法です。
プレス上がりの段階で、内側が円形、外側が8角形になっていますが、この8つの角、最初は丸みを帯びておらす、けっこう立っています。
この角の立った状態のまま、先ずは塗装業者の千代田塗装さんに渡してラッカー塗装をして貰います。
通常はラッカー塗装の後は、そのままベルトコンベアで流れて、透明のクリア塗装になるのですが、G2の場合はラッカー塗装のみで、いったんキリタに戻して貰います。
カット前の軸で組んだもの
千代田塗装さんからキリタに戻ってきたG2の本体軸は、そのまま右から左で、今度は守屋彫刻さんに持ち込まれます。
守屋彫刻さんは、主に金属製のライターと筆記具の表面に彫刻を施す専門の工房で、キリタでもG2の他にシルバー925の表面の筋入れ等をお願いしています。
守屋さんには、先端にダイヤモンドの付いた刃物で金属をカットする機械があり、8角形のそれぞれの角をちょっとずつスーッとカットしていきます。
断面図で見ると、元々の長い辺とカットでできた短い辺が交互にある16角形のようになります。
カット前は全面に塗装がかかっていますから、カットされた面の部分だけ塗装が取れて下地の真鍮色が1本の線として顔を現します。
これは、見た目にきれいな縦ラインを作ると同時に、手で握った時に角が当たっても痛くならないようにする効果もあります。
そして守屋さんでのダイヤカットの行程が終わり本体がキリタに戻ってくると、再び千代田塗装さんに戻されて、表面にツヤ出しと塗装保護のためのクリア塗装がかけられます。
このペンの愛好者が共通して言うのは、細身なのにしっかりとした重みがあって書きやすいと言うこと。これは本体軸の肉厚に秘密があります。
このペンの本体軸を断面図で見ると、外側は8角形なのですが、内側は丸になっています。
この本体は深絞りというプレス技術で製作しています。雄型と雌型の間に真鍮の板材を挟んでプレスするのですが、外側の雌型は8角形で、内側の雄型は丸になっています。
そうすると、8角形の各辺の真ん中当たりで一番肉厚が薄くなり、角の所では、相当に肉厚が確保されます。この8つの角の肉厚が、しっかりとした重さをもたらしているのです。
もちろんその為だけに内側を丸くしているのではありません。内側も8角形だと、ペンに内部に入れる他の部品も全て8角形にしなければならなくなります。
旋盤で作る一般的な部品は、自然と外周が丸くなりますから、ペンの内側は丸い方が他の部品を組み込みやすいのです。
この外側8角、内側丸という本体軸の形が、作りやすさと重みの両方を実現している訳です。
キリタで使っているボールペンの回転メカは、外径(太さ)が6.43mmになっています。
G2ダイヤカット8角ボールペン以外の他のボールペンでは、例えばケーファーでは外径9.5mmの内径8.5mm。KWラッカーでは外径10mmの内径9.2mmと、メカの外径よりも本体の内径が大きくなっています。
そのため、回転メカの外径と本体軸の内径の間の隙間を埋めるための、第3の部品が必要となり、そしてそれを組み込むための作業行程もかかります。
それに対してG2では本体軸の内径は6.40mm。回転メカは、直接本体軸の内側に圧入・固定されます。
つまりG2は細身の分、中に入れる部品数も少なく、それを組み込むための行程も省略できるのです。
2度の塗装とダイヤカットでそれなりにコストはかかりますが、部品点数としては少なく、作業的にも組立てが容易で手離れが良い製品と言う事になります。
製品のデザイン的な良さや使用した時の使いやすさに加え、作り手の側からも評価の高いこの製品は、今後も続けていきたい看板製品です。
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