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階層: トップページ > うんちく > ケーファーボールペン開発秘話 ケーファーボールペン/シャープペン 開発秘話
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企画遍きっかけこの稿ではケーファーについての開発話を書いていきたいと思いますが、このペンがキリタの代表的ペンであるため、キリタの開業秘話的な側面からお伝えする必要があると思っています。 ペン工房キリタの正式社名は桐平工業株式会社です。 バブルの頃には、海外のバッグや服飾ブランドのライセンス商品の注文が多く、相応に儲かっていました。 その後、景気の減退と共にライセンスブランドのペンが売れなくなり、同時にブランド側が本業以外のライセンス商品を締めつけ始めた時に、国内メーカーは高級品を縮小せざるをえない状況に陥ったのです。 その状況変化はもろに弊社の業績を悪化させ、このままでは遠からず倒産と言うところまで追い詰められました。 何とかしなければと思い、大手メーカーに頼らず、自社ブランドの製品を作って販売してみようと思いつきました。 しかし、筆記具業界は古く固定された業界で、知名度のない新規のブランドは流通が相手にしてくれません。 しかしちょうどその頃勃興気から成長期に入っていたネット通販ならチャンスがあるのではないかと一縷の望みを託し、開業したのがペン工房キリタです。 ただ、ネットショップでオリジナル製品を売ろうと思ったものの、肝心な 製品が自分たちにはありませんでした。 なにしろ今までは大手の下請けとして、生産するだけの工場でした。デザイン部門が社内にないのです。 与えられたデザインを製品化することはできても、自分でデザインをすることには全くの素人ばかりでした。 そこで、とりあえず過去に生産して今は廃番になっているセンスの良い製品の中から、部分的にデザインを流用してちょっとだけアレンジを加えた製品をいくつか考えました。 あの製品のこの部分と、そっちの製品のこの部分をくっつけるみたいな感じですね。(もちろん、今も筆記具を販売している会社の製品からは流用できませんが。) そんなこんなで数点のデザインはできてきました。 しかし、そうこうしているうちに、やはり焼き直しのデザインばかりではしょうがないんじゃないか。自社ブランドを立ち上げる意味がないんじゃないかという気持ちが持ち上がってきました。 どこかで見たようなデザインばかりでは、お客様も購入してくれないんじゃないか。1つ位はオリジナルデザインで、個性のある製品が欲しい。 そんな気持ちから、先ずは1本、100%オリジナルの製品を作ろうと決心をしました。 コンセプト一口に自社製の筆記具をネットで売ると言っても、低価格帯の製品では中国製や、国内大手の製品に対抗できません。 一方では海外の高級品は2〜3万円のものが多い。 利幅も考えて、ペン工房キリタが扱う製品は5000円から1万円を中心価格帯にしようと考えていました。 ただ実際にはもう少し安い製品の方が買いやすい。入り口商品として、名入れをして送料を入れても5000円前後で買えるものが必要でした。 そこで新しく開発するオリジナル製品を3000円台の価格設定として、ショップの看板となる入り口商品に据えることにしました。 その上で、さらにコンセプトを詰めていきました。 基本コンセプトは、事務用の安いペンでは物足りない30代から50代の男性が、日常的に使い倒す取り回しの良い中級品です。 まあ最初のうちは、それらのことは漠然と頭に思い浮かべていただけなのですが、そんな状態でデザインを考え始めました。 と言ってもデザインは専門外。とりあえず実際にまずやったのはペンのカタログを見まくることでした。 ただ、今までもペンのカタログはよく見ていましたが、目的を持って見ると今まで気づかなかった色々な面が見えてくるものですね。 基本的には自分の好みで、こんなペンが欲しい、あんなペンならあの人にあげたい。そんな目で見ていったのですが、段々といくつかのペンに刺激を受けるようになりました。 ペンカタログを色々見ていくうちに、従来の、先軸と後軸に分かれているオーソドックスな形には個性を感じられなくなってきました。 それよりも、大きく3つに分かれているファーバーのエモーションや、4つに分かれているぺんてるのペンナ−トリストンズなどがおもしろいと思えてきました。 しかしお家の事情というものもありまして、 企業からの別注や、個人グループからのまとめ買いにも素早く対応のできるシンプルな製品にしたいという気持ちも強く持っていました。 個人向けだけだとどうしても数がさばけない。組み立ては手作業でも部品は工業品だから、ある程度数量をさばかないと部品単価が増し値で高コストになってしまうのです。 そういったことを考えると、全体の構造はある程度シンプルに組み立てやすくし、部品点数も多くしたくない。 そこで本体はパーカーのデュオフォールドボールペンのような一本軸にすることによってシンプル構造にしつつ、かつデザイン的にも個性を持たせようと決めました。 そして本体をシンプルにする分、クリップや天金などにインパクトを持たせることにしました。 全体のデザインとしては女性が好む細さや曲線は採用せず、どちらかというと男性が好む無骨さのあるデザインになっています。 どちらかというと無骨なデザインのケーファーですが、これははっきり言ってデザインした私が女性の好みの全く分からない野暮男であることに原因があります。(笑) 新製品を作るならとにかく女性が好むデザインにしろと、随分と多くの人から言われました。 でも、無理して女性向けを追求しても、どうせセンスがないのだから、はっきり自分好みで徹底し、分からないものは分からないで諦めました。 また、本体軸に曲線を出そうと思うと、深絞りというプレスの技術を使うことになるのですが、ロットも大きく納期もかかります。 実際に採用したのは真鍮のパイプで、無骨なストレート軸にはなりますが、小ロットで調達が早くすみます。 この辺のお家の事情などもこっそり加味して、最終的にはかなり男性的なストレートの1本軸を採用しました。 さらに1本軸が間延びして見えないように、全体の長さは少し短めに、先金と天金は少し大きめにしてバランスをとりました。 構造的にはもう少し短い方が芯の交換も楽なのですが、短すぎるとミニペンになってしまうので、この長さの比率は相当考えました。 試作も作り何度も修正しながら決めていきましたが、結果としてこの短かすぎない短さが取り回しの良さに繋がり、非常に好評をいただくことになりました。 開発編メカと芯シンプルなストレート1本軸でちょっと短め、クリップ・天金で特徴を出す。と言う基本概念を決めた後、具体的な長さや太さ、形状や構造を考えていきました。 芯の出し入れに使用するメカは、既存のクロス社タイプの芯用の回転メカを使用することが決まっていました。 1本軸のペンでは、回転メカは使いにくくノックタイプにするのが作りやすいのですが、ノックタイプではやはり高級感に欠けます。 2,000円位までの1本軸ボールペンではノックタイプがほとんどですね。 でもこの製品は、安物ではないけど高すぎない「ちょっと良い品」を目指していたので、ノックタイプにはしたくありませんでした。 一方先軸と後軸をひねって芯を出す回転メカでは、後軸にメカを仕込むパーカータイプと、先軸にメカを仕込むクロスタイプの2つが主流となっています。 1本軸のペンで回転メカを使うには、パーカータイプの場合、本体軸を後軸に見立ててメカを仕込み、先金を先軸に見立て、回転時には本体と先金をひねることになります。 (パーカーのデュオフォールドでは、はみ出しながら無理矢理気味に天金にメカをつけています。) クロスタイプの方が、本体軸を先軸に見立てメカを入れ、天金を後軸に見立てて作れば本体と天金をひねって芯を出せるので、スマートです。 桐平では元々クロスタイプのメカを主に使っていましたので、メカについてはクロスタイプの仕様が自然と決まりました。 本体サイズまた、ケーファーの太さは直径9.5mmです。本当は構造上は10mmにすれば既存の部品も使え、設計上の余裕もあったのです。 でもKWシリーズのような先細りの軸なら、太い部分が10mmでも良いのですが、ストレート軸の10mmは微妙に太いんですよね。 そこで9mmを目指したのですが、そうすると構造上どうしても内部の機構が収まらない。それでしかたなく9.5mmと言う半端なサイズになりました。 本体の真鍮パイプの肉厚は0.5mmです。 キリタの他の真鍮ペンでは肉厚0.4mmのものが多いのですが、このペンでは少し短めの分、軽くならないよう、0.5mmにしました。 それに、肉厚0.5mmなら既製品のパイプが使える分、調達が早く、急な注文にも対応しやすく、別注を取るのにも有利になります。 このように長さや太さなどは、純粋に理想のデザインを追った行っただけでなく、構造上の制約や、材料調達のしやすさなどにも影響されています。 にもかかわらず、出来上がった製品の長さ・重さ・太さのバランスは絶妙で、多くのユーザーから絶対的な支持を得ています。 確かに大枠としては、狙っていた事は狙っていたのですが、完成してみたら狙った以上のものになっていたのです。 このことは私には、追い詰められた経営状態からなんとか会社を立ち直したい。みんなの生活を守りたいという気持ちで開発した製品の上に振ってきた奇跡のように思えるのです。 天金のカーブここまで読まれた方には、ケーファーの開発が至極順調にいったような印象を持たれるかもしれませんが、なかなかどうして上手く行かない部分もありました。 その中でも、手こずって手こずって、このままじゃらちがあかないんじゃないかと心配までしたのが、頭部の天金です。 完成された天金を見ると、ペン本体と同じ太さから始まって、後ろに行くにしたがって少しラッパのように膨らんで終わっています。 ぱっと見ると実にどおってことない形状に見えますが、この形状にたどり着くまでに、ずいぶんと色々な形を試しました。 実は最初は、太さは本体と同じまま、指の形に添うように3ヶ所に窪みをつけるつもりでした。 ファーバーカステルから出ているポルシェデザインのペンで、握る部分の指の当たる3カ所に窪みの付いているペンがあります。 それをイメージして窪みの長さや太さを考えて図案化してみたのですが、どうもしっくり来ないんです。 そこで3ヶ所の独立した窪みではなくて、軸全体が少し細くなってから本の太さに戻る形で設計してみました。 これも細り始めの位置や絞った部分の細さ、カーブのアールなどを色々なパターンで試作しました。 さらに、細くするのを止めて、ずっとストレートで続くものや、逆に途中から太くするパターンも色々と作ったのですが、どれも自分が求めているカーブとはちょっと違うんです。 色々なカーブを試しても、どれもいまいち自分の納得のいく曲線がでないケーファーの天金ですが、かといって自分でも理想の曲線が頭にあるわけではないんです。 何となくもやもやとした姿は見えているのですが、いまいちはっきりしない。何ともじれったい感覚で、頭の中はすっかり混乱してしまいました。 そんなもうどうしたらいいか分からなくなって、ちょっと途方に暮れていた時に、キリタでNC旋盤を担当している関さんが「天金のカーブ、これでどうですか。」と言って差し出してきた部品がありました。 実はこの天金の開発の進め方としては、まず自分で図面を何枚か書き、これは良さそうだと思うものだけをNC旋盤で関さんに試作をして貰うというパターンでここまで進めてきたのです。 で、何個試作を作っても納得しない僕を見て、関さんが自分で考えた曲線のパターンを、僕の今までの図面を元に試作をしてみて、僕に見せてくれたのです。 その天金を見た時、一瞬で、これこそが僕の探していた曲線だと直感しました。 自分で何パターンも図面を引きながら見えてこなかった理想の曲線を、関さんが見事に探し当ててくれていたのです。 今改めて現物を見ても、要はどこから曲線が始まり、何アールで曲線が続き、最終的にどの位の高さと距離で終わるかと言うだけの事なんです。 でも、自分では見つけられなかったそのカーブは、すごくシンプルでスッキリしたカーブでした。 天金の柄入れケーファーの目玉機能とも言えるのが、頭部の金具(天金)に自由に柄を入れられる事でしょう。 これは絶対に、完成品を店頭で売る大手のメーカーにはできない事です。 これは最初、どうやったら別注が取れるかを考えて考案したものです。記念品を受注するのに、会社や学校などのロゴをペンに入れられれば、注文を取りやすいと思ったんです。 ネットショップと言っても1小売店である事に変わりはないですから、個人向けにいくら売ってもトータルでどの位売れるのかは未知数でした。 と同時に、真鍮製のペンは工芸品ではなくあくまで工業製品です。ある程度の数量で発注しないと、クリップ屋さんや塗装屋さんなどの価格が凄い増し値になってしまいます。 ですから一定以上の数量をさばくには、何とか別注を取りやすくしておきたかったのです。 もちろん個人の方にもお好きな柄を入れて楽しんで貰いたいという希望はありました。ただ、それだけではない打算もあったという事です。 私個人としては、柄の入っていないプレーンが一番好きなので、個人の方で柄を入れる方がどの位いるのか想像がつきませんでした。 そして実際に発売を始めて見たら、あらびっくり。別注の注文もポツポツ来てくれましたが、それ以上に個人の方から色々な柄の注文が次々と舞い込んできたのです。 一番多いのは、一文字ないし二文字のイニシャルを入れる方で、それを入れる事によって手軽に自分だけのオリジナルペンを作れる。 またはそれを贈る事によって、世界に一本だけのオリジナルボールペンをプレゼントにする事ができることが魅力なようです。 イニシャルほどは多くはないですが、いつも楽しみながら製作させて貰っているのが、何かのキャラクターや自分のオリジナルのロゴを入れるご注文をいただいた時です。 本来は商標権のあるキャラクターなどは商品化はできないわけですが、追加料金なしで、ロゴの入っていないものと同じ価格で販売する事で、私が個人的にペンに絵を描いているというスタンスを取っています。 多いのは動物や植物のイラストや車のロゴ、好きなスポーツチームのロゴなどでしょうか。 その他に一点ものとして会社夜学校のロゴや自作のイラスト、自分の好きなキャラクターなど、実に様々な柄の要望が寄せられます。 図柄については、基本的に画像のメール添付でいただきますが、中には画像の状態が良くなくそのまま印刷できないものもあります。 そのような時にはこちらで修正や描き直しなどの校正を行いますが、それがけっこう手間暇がかかるんです。 サービス残業で何とかこなしている状態なので、本当は有料サービスに移行したいんですよね。 でもそうすると商標権のある柄はお受けできなくなるし、お客様も気軽に依頼できなくなると思って、今はまだ無料で頑張っています。 いずれタイミングを見て有料に移行するかもしまれませんが、でもできるだけ長く無料で頑張りたいですね。 天金の柄入れには、先ず天辺の凹んでいる天金を用意します。 と書くとなにやら簡単そうですが、実際はかなり大変でした。 なにしろ1本からですから、印刷業者とかバッチ業者とかは使えません。 先ず社内にある市販のプリンターと市販のラベル用紙で柄を製作するのですが、これがなかなかやっかいでした。 それというのもインクと紙によって、エポキシを注入した時にインクが滲んだり変色したりするのです。 どのインク、どのラベル用紙を使った時にそうなるのか、焼き固める時の温度や時間なども含めて様々な組み合わせでの試行錯誤を行いました。 発売開始後にも上がりが安定しないで、その時々によって、昨日と同じ条件でやったつもりなのに、昨日は良くても今日は滲んだなんてこともあり、途方に暮れた事も何度もありました。 急いでいる時に限って上がりが悪く、大急ぎで作り直したり、廃棄しなければならなかった天金も相当の数になります。 一時期は、この企画はもう実現できないかと半ばあきらめかけた事もありました。 色々と苦労したケーファーの天金ですが、開発初期には、エポ入れの終わった柄の中心に黒い影が映るようになり大騒ぎになった事もあります。 柄の真ん中に小さな黒い影が必ず浮かぶのです。 実は旋盤で削り上がった状態の天金には、縦に貫通穴が空いています。 天金は切削後に切り粉を水槽の中で洗い流すのですが、本体側の穴の中に溜まっている切り粉が、貫通穴がないと流れがないのでなかなか出て行かないのです。 そこで穴の空いた状態で製作し、柄を印刷したラベルで穴を塞いで仕上げるようにしました。 天金にはピカピカと光るロジウムメッキがかかっています。それはつまり外からの光を反射させている事になります。 凹み部分には上からラベル用紙と透明エポが乗っていますが、それでも上から入ってきた光は透明エポとラベル用紙を通り抜け、メッキに当たって反射して光を返します。 しかし凹みの中心に穴が空いていると、穴の部分だけは上からの光を反射しないので、その部分だけ暗い影になってしまうのです。 と、分かってしまえば簡単な原理なのですが、そこに思い至るまでは相当考え込んでしまいました。 今も貫通穴は空けていますが、柄ラベルを貼る前にアルミ箔を張り穴をふさいで対処しています。 現在では、いくつか試した中で一番良いプリンター(インク)、一番良いラベル用紙、焼き温度や時間などが段々分かってきて仕上がりも安定してきました。(詳細は秘密ですが)(笑) 特に、印刷からエポ入れまでの時間を2日間ほど空けるようにしてから、良くなったようです。 クリップの構造ケーファーで天金に並んでもう一つ特徴的な部品がクリップです。 ここ数年の間に、世界の高級筆記具業界の間では、クリップの個性化がもの凄く進みました。 元々クリップは「ペンの顔」とも言われ、そのペンのデザインを決定づける重要な要素でした。 従来は、ピンピンと跳ねるバネ性を持たせるために、薄い鉄の板をプレスで曲げて作る方法がとられていましたが、この方法だとひらべったい感じになりデザインのバリエーションが広がりませんでした。 それが最近では、鋳物や切削加工による、厚みがあり固まり感のあるクリップを使用するケースが増えてきました。 ただ多くの場合、それらのクリップには、それ自体にバネ性は有りませんから、小さなバネを別部品として組み合わせてあります。 そのようなクリップを採用する事によって、今までではできなかった立体感のある様々な形のクリップが作られるようになってきています。 ケーファーも、本体そのものはストレートのパイプを使ったシンプルなデザインですので、クリップには立体感のあるものを使いたいと思っていました。 ただケーファーの場合は、頭部の天金を回して芯の出し入れをするので、小さな別バネを頭部に仕込む方式は採用しにくい形状でした。 そこで、鋳物(ダイキャスト)で厚みのあるクリップを製作し、プレスで作った鉄の小さなクリップとカシメて組み合わせる方式を採用しました。 ケーファーの開発で、最もお金がかかったのがクリップの型代でした。 鋳物の型には何種類かあり、価格もまちまちです。 装飾品・アクセサリーなどにはワックス(ろう)型とかゴム型と呼ばれる、原型から型どりして型を作るものがよく使われます。 それらは型代も数万円と安いし、比較的小ロットでもできるのですが、出来上がりに歪みなどのバラツキがあります。 装飾品の場合は、後工程の研磨などで綺麗に仕上げるのですが、微妙に形が不揃いになります。 他の部品と組み合わせて使用する工業用品には向きません。 ダイキャストとは精巧な鉄の型で作った鋳物で、おもちゃのロボットで言うところのいわゆる超合金Zです。(懐かしい響きですね〜。) 原型からではなく、図面から鉄を切削して作るガッチリした鉄の型で、仕上がりが綺麗に揃い、他の部品と組み上げるにも適しています。 ただ型代は、大きさと複雑さに寄りますが、大まか数十万から100万の費用がかかります。 ケーファーのクリップとしては、できれば低予算のゴム型などを使いたかったのですが、やはりペンの一部品として組み上げる事を考えると、ダイキャストを使うしかありません。 ただ苦しい台所事情もあり、何とか安く作れないかと型屋さんに相談したところ、製作途中でキャンセルになった型があるので、それを使って安くしましょうと言っていただきました。 でもそのことが結局、後に色々な問題を引き起こす事になりました。 クリップのメッキ型代を安く作れたと喜んでいたクリップのダイキャストですが、いざ製造を始めて見ると、組立現場から不満の声が上がってきました。 メッキ上がりの仕上がりが、今一綺麗じゃないというんです。 通常キャストや真鍮の切削部品なども、メッキ前の段階で、研磨剤をつけた布を回転させて品物に当てる「バフ」という研磨を行います。 メッキの仕上がりの美しさは、8割方バフで決まると言われており、美しい仕上がりを目指す上では、非常に重要な工程です。 今回のキャストもバフを使って研磨してありますが、それでもメッキの肌(表面)が荒れているものが結構あるというのです。 とりあえず全数検査による選別で対応しましたが、歩留まりが悪いままでは利益が上がりません。 メッキ上がりに選別で不良を弾くと言うことは、キャスト代、研磨代、メッキ代、選別代までが無駄になってしまうと言うことになります。 不良を出した工程の業者に、補償を求めると言うことも考えられますが、そのためにはキャストの成型工程、研磨工程、メッキ工程のどこが悪いのかを特定しなければなりません。 でもこれがなかなか難しいのです。 今回の件に限らず、研磨とメッキは密接な関係にあるのですが、以外とメッキ屋に言わせると磨きが悪い、磨き屋に言わせるとメッキが悪いとか生地が悪いとか言い合ったりする場合が多く、原因が特定しにくいのです。 なにしろみんな下町の職人なんで・・・(涙) とにかく言い合っていても話は進まないので、メッキが上がっているものは選別をし、次回のメッキ時からはコストが多少上がっても良いから研磨を入念にして貰うことにしました。 そして数ヶ月後に次のロットが上がってきたのですが、まだあまり良くないのです。 磨きを入念にやっている分、確かに前回よりは良くなっているのですが、まだ全数検査無しで流せるレベルには達していないのです。 再び各工程の職人に聞き取りをすると、磨きの業者から、どうも磨き前の生地の段階で肌荒れがひどいから、これ以上は綺麗にならないとの意見が出てきました。 そこで、キャストの成型業者に事情を説明し、キャストの肌をもう少し綺麗にできないかと相談したら、次回生産時には圧力や時間を工夫して貰うことになりました。 そしてさらに数ヶ月後、次の生産を行うことになり、キャスト業者にはよくよく綺麗に上げてもらうよう念を押し、作業をしてもらいました。 本来なら成型上がりで検査を入れたいのですが、キャストの成型上がりというのは磨かないとその肌の出来映えが分かりにくいのです。 成型時には何十キロもある型を成型器にセットして、ドロドロに溶けた材料を流します。 納入品を取る前には、型と機械の調子を出して安定するまで、数百から千個程度は捨て打ちもしなければなりません。 ですから、数個だけ打ってみて磨いて見る訳にはいかず、一度セットしたらある程度の数量は作ってしまいます。 結局注文数は全て打って貰い、研磨屋に持ち込んだのですが、研磨屋が磨いて見て曰く「まだあまり良くない」とのこと。 成型条件を見直して丁寧に成型して貰ってもまだ綺麗にならないキャストクリップの表面の問題に、もうこの頃になると、頭の中はグチャグチャで、どうして良いか分からなくなっています。 既に3ロットも打ち、全数選別しながら使っている状態が1年も続いているのですから、組立て現場でもイライラが募ります。 ともかくキャストの成型屋にまた行き、相談しました。 成型屋の見解では、調製でできる範囲のことはやった。どうもドロドロに溶けた材料の型内での流れが悪い。これは型の問題で、ゲート口の位置が悪いんじゃないかとの見解でした。 ゲート口とは溶けた材料を型に流し込む入り口のことで、型の形に合わせて効率の良い場所に作ります。 ただこの型は、他の形用のものを転用したため、ゲート口の位置が、このクリップの形には流れにくい位置になってしまっていたのです。 ここまで判明するのに、それほど頻繁に生産しないため、実に1年位がかかっていました。 そして最後に分かったことが、型代を節約しようとしたために問題が起こっていたという事実でした。 それを決めたのは他ならぬ僕ですから、この事実にはかなり凹みました。 結局、イマイチ表面の肌の悪いクリップは、選別しながら3年間程使い続けました。 苦しい台所事情と型代を考えると、簡単に作り直すこともできませんでした。でも、いつまでも歩留まりが悪いままという訳にはいきません。 さいわいケーファーは評判良く売れ続け、累計本数もかなりの数量になっていました。 そこで今後のことを考えると、ここらでもう一度、型から作り直そうと言うことになりました。 今回は、前回の型屋さんではなく、ペンクリップの専門会社である東京金属工業さんを通じて、別の型屋さんで作ることになりました。 東京金属さん自体はプレス屋さんですので、ダイキャストの型製作や鋳造は行っていませんが、技術力のあるキャスト屋さんを知っていて、綺麗な型を作ってもらいました。 今までの型で作ったクリップに比べ、ようやく表面の肌も綺麗になり、磨き工程も楽に、歩留まりも向上しました。 現在ケーファーのキャストクリップはストレートタイプと十字タイプの2種類がありますが、良いキャスト屋さんが見つかったことで、今は次のクリップも視野に入っています。 実は去年、第3の形のクリップを作る計画だったのですが、リーマンショックからの景気の落ち込みで、型の制作依頼が延期になっています。 クリップに限らず、ケーファーには少しずつ改良が加えられていて、これからも色々な計画を思い描いています。 発展編細かな改良2005年の発売時から一見何も変わっていないように見えるケーファーですが、実際には目に見えないところでかなりの進化をしてきています。 ここでは、ケーファー改良の歴史をご紹介いたします。 先ず、発売時にはボールペンしかなかったケーファーですが、1年後の2006年の春にシャープを追加しました。 なぜ最初からシャープも一緒に出さなかったのかというと、ケーファーの最大のウリである、天金に柄が入る仕組みのためです。 通常のシャープでは、天金部分にノックボタンを突き出させています。 しかしケーファーでそうすると、ボールペンと異なり、柄の入る部分がノックのてっぺんのとても狭い面積になってしまいます。 ボールペンの天面でも込み入った柄を入れるには狭い位なのに、ノックボタンの天面ではとても見栄えの良い仕上がりにはなりません。 しかたなく当初はシャープを諦め、ボールペンのみの発売になりましたが、シャープも出したい気持ちはずっと持っていました。 そこで、困った時の現場頼み。 シャープも出したいんだけどノックボタンはつけたくないことを相談すると、NC旋盤の担当をしている関が苦労して回転ノックの仕組みを考えてくれました。 細かな切削部品の組み合わせで、横方向への回転を縦の動きへ変換する仕組みで、これによってノックボタンを天金の上に突き出さずにノックができるようになったのです。 この回転ノックの開発によって、天面にボールペンと同じ大きさの柄を入れられるシャープが発売可能になりました。 その他の細かな進化として、クリップの座金部分の肉厚の変更や、メッキのロジウム化なども密かに行ってきた改良です。 クリップのバネ性の強さは、プレスで作る板バネの場合、折り曲げ方と板の肉厚で決まってきます。 横方向と縦方向を組み合わせた折り方だと強度も増すのですが、ケーファーの場合は一方向の折だけなので、バネ性が若干弱かったのです。 そこで、発売当初は0.5mmだった板バネの肉厚を、2年後には0.6mmの肉厚の板に変更し、クリップが緩くならないようにしました。 たった0.1mm肉厚が厚くなっただけですが、ずいぶんとバネ性が強く、クリップが緩まなくなりました。 また、部品のメッキについては、発売当初は錫と銅の合金メッキ(銀色)を使っていました。 このメッキは、少し柔らかい銀色のメッキで、風合いが気に入っていたのでブランド物のOEMにも使っていた物でした。 他のブランドペンで問題なく使っていたメッキでしたが、ケーファーの場合、回転のために摘む部分が天金部に集中するため、ずっと使い続けると、天金の握る部分のメッキが薄くなってくるという報告を受けるようになりました。 そのため、部品に使うメッキを合金メッキから、メッキ代は少し上がりますが思い切ってロジウムメッキに変更しました。 ロジウムといえどもメッキである限りは、使い続ければ退色していきますが、合金メッキに比べればかなり持つようになりました。 こちらも発売2年での変更でした。 ケーファーの本体カラーは、ブラック、ワイン、ダークブルーの3色ですが、その中でダークブルーはかなり濃い、黒に近い濃紺でした。 深みがあってとても良い濃紺で評判も良かったのですが、1つ困ったことがありました。 それは、ダークブルーをお届けしたお客様から時々「黒が間違って配送された」という連絡を受けることでした。 そこで一昨年、発売から4年の時点で、ダークブルーの青をほんの少し明るめの紺に変更しました。 なにげに見ていると気づかない程度の変更なのですが、黒と間違われない程度に明るく、ほんの少し紫系の入った紺でこちらの色もとても気に入っています。 スワロフスキー今年(2010年)に入って、天金柄の勢力図を大きく塗り替えたのが、スワロフスキー入りの天金をつけたケーファーです。 それまでのケーファーは、以前のこの稿でも触れたように、直線的で硬い男性的な感じのするペンでした。 これに対して組み立て現場の女性陣から不満が爆発、「もっと私たち女性向けの製品も作ってよ。ほら、こんなの試作してみたわよ!!」って言われて現場から上がってきたのが、天金にダイヤのようなカットガラスを入れたケーファースワロフスキバージョンです。 最初は懐疑的だった僕ですが、もちろん女性陣には逆らえません。(笑) 型の投資が必要な訳ではないので、様子を見るつもりで始めたスワロバージョンですが、発売を開始すると意外なほどの注文数で、今ではすっかり定番品になっています。 最近巷では、ケータイなどにびっしりと小さなスワロフスキーを貼り付けた物がはやっています。 ケーファーでは使用者の年齢層をあまり若者向けに設定していないので、全身にびっしり貼り付けることはしないで、大きなスワロを1つだけ天金につける形にしています。 そのスワロ付のケーファーはとても好評ですっかり定番化したのですが、調子に乗ってもう1カ所スワロを付けたバージョンを出した事があります。 2種類あるケーファーのクリップのうち、十字クリップの正面のカラーが入っている溝に、ずらっと小さなスワロを並べてみたのです。 ちょうどその頃は色々なグッズの表面に小さなスワロをペタペタくっつけるのが流行っていて、いやもう単にくっつけると言うより、グッズのボディの全面にビッシリとスワロを貼り付けるのが流行っていました。 そこでキリタとしてもそのブームにあやかって、でも全体を埋め尽くすのは趣味ではないので、取り敢えずクリップの正面に小さなスワロを貼ってみた訳です。 天金のスワロと異なりこちらは定番化せず、現在は販売していませんが、当時はけっこうスワロ好きの女性ファンには評判が良かったんですよ。 天金に使われているスワロフスキは大型で、横から見るととがった円錐で天金に開けた穴にはめ込んであり、精密なカットも施されています。 それに対してクリップの溝につけたスワロは小さくて底の平らなライン ストーンですが、こちらは数で対抗して縦に16ヶ、横に3ヶの合計で18ヶを十字に沿ってずらっと並べたので、かなり壮観でした。 (おっと今足し算が違っていると思いましたか?十字に交差しているので、一個は重なっているのですよん。) ただ、かなり評判は良かったのですが、定番化をしなかったのには訳があります。まずとにかく手間暇がかかるんです。 元々の業者の方やスワロマニアの人たちなら、慣れもありかなり手早くできるのかもしれませんが、我々としてはかなり不慣れな作業です。 それに、手間暇かけた割に、出来映え的にどうしても満足できない点が二つ残るんです。 クリップの溝に小さなスワロのラインストーンを貼り付ける際に、一つ一つのスワロの平らな底に糊をちょこっと付けるのは、スワロが小さすぎて不可能です。 そこでクリップの溝の方に糊を塗り、その上にスワロを1個1個載せて、並べていきます。 専用の、綿棒のような形の道具を使い、その先端にスワロをくっつけて、糊のついた狙った所へ落としていきます。 ただその全ては手作業ですから、どうしても並べたスワロが少しずつずれるんですね。 スワロ好きの人たちがよく小物グッズにやるように一面にびっしり敷き詰めるのであれば、少しくらいのズレは目立たないのでしょう。 でも一直線に並べると、どうしても少しのズレも気になります。 そしてもう一つの気になる点は、糊のはみ出しです。 先に糊を塗った面にスワロを置いていくので、どうしても糊はスワロの底面よりはみ出るのです。 糊自体は乾くと透明になるので、ぱっと見るとはみ出しも見えないのですが、ルーペでちょっとよく見るとけっこう気になります。 全面にびっしり貼るのであれば糊もはみ出して見えないのでしょうが、一列にだけ並べると、どうしてもはみ出しがよく見えるのです。 まあ曲がりにせよ糊のはみ出しにせよ、ぱっと見て気になるレベルではなく、クレームなども一件もありませんでした。 でも売り手の側としては、手間暇ばっかり掛かって仕上がりに納得できないのであれば、やはり定番化はしないことになりました。 ただ終了となったタイプから、スワロ数を減らして作ったバージョンを、特定の別注のお客様や、短期間の限定製品として、その後も何度か製作しました。 十字クリップの縦棒と横棒の交わる部分に、縦3つx横3つの合計5個(中心の1っこは重なり)だけを付けたバージョンで、これはこれでけっこう評判もよかったです。 数が減っても糊のはみ出しは無くなりませんが、並べたスワロのずれについては、多少目立たない感じになります。 今は人手が無くて販売をしていませんが、状況次第ではこのスワロ付きクリップ(5個版)は、また限定として出すことがあるかもしれません。 季節のケーファーケーファーの天金柄は、原則としてお客様のリクエスト通りに製作していますが、昨年のクリスマスに始めてこちらが用意したイラスト入りの物を製作しました。 東武デパート池袋との連携企画で、クリスマスの限定バージョンとして、サンタの顔、雪だるま、クリスマスツリー、プレゼントの入った長靴、雪の結晶の4種類の図柄を発売しました。
実用にちょっとしたかわいらしさを加味したクリスマスプレゼントとして、かなりの好評をいただきました。 これをきっかけに、クリスマスの限定バージョン販売終了後に、新春バージョン、夏バージョンと、順次季節の限定で発表しています。 新春柄は日の出、梅と鶯、サクラの花びら、バレンタインを意識したハート柄、入学を意識した大変良くできましたのスタンプ風の5種類。 夏柄は星空、ホタル、金魚、朝顔に、母の日を意識したカーネーション、父の日を意識した黄色のバラの6種類です。 これらの限定柄は、通常のイニシャルや家紋、スワロなどが平行して売られているため、トータルの数量的にはさほど大きな注文数にはなりませんが、一定の支持を得てそれぞれ売れていっています。 その後の最初の数年は、前の年と被らないように色々と知恵を絞り、花柄も色々な花を考えました。 どの季節にどんな花が咲くのかは、それこそ桜や向日葵のようなその季節の代表的な花なら分かるものの、それら以外の花については、けっこう知らなかったりしましたね。 春の七草は草ばっかりだったり、秋の七草は花も綺麗なものが多かったり、色々勉強になりました。 今はそれぞれの季節の花柄が定番となった天金の限定季節柄ですが、最初の数年は花以外も色々とやりました。 例えば春の柄として、梅に鶯が止まっている柄や、朝日が昇る旭日旗のイメージの柄、蝶の柄やハート柄なんかもやりました。 夏にも花柄の他に、蛍や金魚、天の川や昆虫シリーズなんかもやった年があります。 秋にはハロウィンのカボチャ柄を作ったり、月や、富士山を背景に紅葉の景観を写真で作ったりしました。 冬にはツリーや雪だるま、サンタ等クリスマスのイラストもやりました。 ただそう言ったいわば色物的な柄は結局あまり売れずに、結局最近の数年は花柄などで落ち着いています。 春ならスイートピ−、クロッカス、すみれ、れんげなど。夏は桔梗、撫子、露草、ハイビスカスなど。秋は菊、萩、葛、もみじなど。冬はポインセチア、シクラメン、柊、クリスマスローズ等です。 一番評判が良く今も継続しているのは、冬の雪の結晶柄と、春の桜の花びら柄です。結局派手すぎないものの方が選ばれますね。 パール色またケーファーで、もっと明るい色も欲しいという声をちょこちょこ聞くこともあり、かなり以前から白系の新色を出すことも考えていました。 実は真っ白のケーファーは既に試作をしてみたのですが、チョット物足りない感じがしたので、一度は中断したのです。 その後ケーファーの塗装を担当している千代田塗装さんと相談し、パール塗装を提案して貰いました。 このパール塗装とは、螺鈿のように貝を粉末にしたキラキラの元を塗料に混ぜ込んだ塗装で、塗り上がりの表面にキラキラの粒子がちりばめられています。 まず白パールの試作をした所、かなり良い感じだったので、さらに別の色を考えました。 元々のダーク系が3色なので、明るいパール系も3色にして合計で6色にするつもりでした。 白の他にピンクはすんなり決まったのですが、他の候補として水色、緑、紫などが候補に挙がりました。 社内でもけっこう意見が割れたのですが、最終候補として水色の他に、最近のはやりとして千代田塗装さんが推したシャンパンが残りました。 それで残りの1枠を巡って2色の決戦になったのですが、これがなかなか決められません。 で、困った時は現場に聞けの鉄則通り現場の女性陣に聞くと、「別に7色でも良いじゃない。迷っているなら全部やれば。」との言葉。 あまり色数を増やすと在庫負担が大きいので経理的には嫌だったのですが、「現場の声は神の声」です。 結局パール系の新色はホワイト、ピンク、水色、シャンパンゴールドの4色とする事になり、2010年の秋から発売となりました。 エンジンタン&メッキバージョン本体そのものに加工をした限定版のケーファーも色々制作しました。 通常のケーファーの本体軸はラッカー塗装ですが、メッキ仕上げにしたバージョンを限定で出した事もありました。 ツルツルの真鍮の上にメッキだけを掛けて鏡面仕上げにする事も出来 たのですが、それだと使用している内に小キズがついて、すぐに傷だらけになってしまいます。 そこでキリタのKWエンジンタンボールペンと同じように、本体軸 全体にエンジンタン彫刻機で彫りを入れてから、ロジウムメッキを掛けました。 価格も、彫刻+ロジウムメッキという事で塗装と同じとはいかずに、 6,000円の設定にして発売しましたが、それでもとても好評で、何回か行った限定販売では、毎回完売となりました。 メッキ版のケーファーでは、最初に出したバージョンではタテ筋のエンジンタン加工にロジウムメッキ版でした。 クリスマスキャンペーン中の限定版として出したのですが、これが大好評で完売したので、その後何度か限定で出しました。 その後のエンジンタン柄ではアミ目を出したり、金メッキ版なども出して、いずれも好評でした。 このメッキ版については定番製品にしようかとも考えたのですが、結局定番にはしませんでした。 種類が増えすぎると、管理も在庫コストも大きくなるので、小さな工房の身の丈に合わせて、たまに限定で出す方が良いかなと。 今でもたまに「メッキ版ケーファーは今ないんですか?」などと聞かれたりもします。 金部品バージョン このメッキ版には銀色メッキの他に金色メッキ版も出したのですが、当然その金メッキ版では天金や口金なども金メッキで製作しました。 その全体金メッキ版は一回だけの超限定だったのですが、その時にメッキに出した金部品を使って、本体軸は塗装のままで部品だけを金色にしたケーファー金メッキバージョンを出したこともあります。 メッキはあまり少量では出しにくいので、このような場合は部品の種類を絞って出します。 この時はシャープ用の部品は出さず、2種類あるクリップも十字は諦めてストレートタイプのみで出しました。 本体色については、どのカラーでも金部品を付けることはできたのですが、あえてブラック、ワイン、ダークブルーの3色に絞りました。 部品を金部品にする場合、本体色については、やはりダーク系の方が金がよく映えるんですよね。 パール系のボディカラーで金部品を付けると、金が強すぎて本体のパールが負けてしまって、沈んじゃうんですよ。 このケーファーボールペン金部品バージョンは、主に父の日などに合わせて限定で出したのですが、かなり好評をいただきました。 父の日用にも売れたのですが、多くのケーファー好きの男性のお客様が自分用に購入したケースが多かったです。 私自身、現在愛用している日常使いのケーファーに、この金部品のブラックを使っています。 実はまだこの金部品は部材の残りが若干あるので、今年の父の日にも限定で出そうかと考えています。
本体プリント(桜と紅葉)バージョン 変わり種の限定ケーファーとしては、昨年と今年に出した桜柄と紅葉柄のケーファーがあります。 これは天金の柄だけをさくら柄・もみじ柄にするのではなく、ボディそのものに印刷をして柄を付けたものです。 ケーファー7色の内4色ほどの本体に、シルクスクリーン印刷で、春には桜の花びらと、秋には楓の葉を散りばめて印刷しました。 桜の花びらはホワイト、パールブルー、シャンパンゴールドのボディにはピンクの花びらを、ブラックには金色の花びらを入れました。 楓の葉っぱは、ホワイト、パールブルー、シャンパン、ブラックに赤色の葉っぱを散りばめて印刷しました。 ボディに桜の花びらと楓の葉っぱを印刷した限定版のケーファーは、昨年と今年の2年ほど、それぞれの季節に販売しました。 売上的には、桜の圧勝でした。 元々春は卒業入学シーズンでもあるのですが、それにしても見事な位に相当差がつきました。日本人はやっぱり桜が好きなんですね。 この桜柄のケーファーは、名古屋ハンズの「春のセールス」の目玉として売られたりして、けっこう評判が良かったようです。 キリタのオリジナルとしては、この桜と楓くらいしかやりませんでしたが、たまに別注で社名のロゴや柄を入れたりは今もしています。 このボディへの柄印刷は、シルク印刷ではフルカラーでの印刷ができないのが難点なので、それができればもっと色々試せたかもしれません。 革巻きバージョン 数年前に本革巻きボールペン【クロコ】の特別バージョンとして、クロコ以外の革を巻いたペンを出しました。 そもそも【クロコ】の開発時に、クロコ以外の革も色々試しまして、蛇皮や牛革などのサンプルがけっこう残っていた物を放出しました。 実は【クロコ】はケーファーをベースに作られていて、本体軸の真鍮パイプはケーファーと共通なのです。 そこで、【クロコ】のサンプルを作る時に、こっそりケーファーの本体軸用の長さの真鍮パイプにも色々と革巻きを試してみたのです。 実際にはケーファーの革巻きバージョンはサンプルのみでお蔵入りとなっていたのですが、【クロコ】の特別版を放出したタイミングで、ケーファーの革巻き革巻き版も数量限定で販売しました。 本当にサンプルで作っただけの数量だったので、あっという間の販売期間で完売しました。 ケーファーの革巻きバージョンで使用したのは、牛革と山羊革です。 牛革はブラックカラーとライトブラウンの2種で、山羊革はブラックのみの合計3種を用意しました。 山羊革は、牛よりごわごわした感じの革で、牛よりかなり存在感があり、個人的にはかなりツボでした。 でも写真に撮るといまいち山羊の革の感じが出なかったのが残念です。 どちらも10本ずつ程度で作ったサンプルの放出でしたので、あっという間に完売してしまいましたが、その後に定番品にはしませんでした。 革は、同じ感じの物を安定的に購入するのが難しかったりするので、単発でならまた出してみても良いかもしれませんが。塗装品やメッキ品のようには定番化はできないですね。 ジェットストリーム用アタッチメント 今回のケーファー開発秘話の中でも最大のトピックが、これから書くジェットストリーム用アタッチメントの開発です。 三菱から 年に発売されたジェットストリームは、油性のボールペンですが水性を越える滑らかな書き心地で大人気商品となりました。 (最近はそうでもないですが)以前の水性のような滲みやキャップの必要もない油性でありながら、ツーーっと滑っていくようなその書き味は多くのファンを作り、一大ブームを巻き起こしました。 その後、他の大手メーカーからも類似品がどんどん発売されました。 その頃からキリタにも、ジェットストリームのような滑らか油性は無いのですかという問い合わせを多くいただくようになりました。 ただ、芯の開発というのは、資本力のある大手メーカー以外には、中々できるものではないのです。 ジェットストリームの滑らかさの秘密は、新規に開発した滑らかなインクと、そのインクを活かす先端ボールの組み合わせにあります。 インクの原料である顔料、溶剤、添加剤などのあらゆる素材を集めて調合し、どの素材を組み合わせたときに最も滑らかになるかを検証。 さらにボールもあらゆる素材を集め、インクとの相性で最も滑らかになる組み合わせを探したそうです。 その組み合わせ数は数千パターンになったそうで、その製造レシピは当然企業秘密です。 後発で類似の滑らか油性を発売した他の大手メーカーも、インクの成分などは分析したとしても、特許があるので同じものは作れません。 一から同じような手順で、そのメーカーなりの滑らか芯を開発することになります。 キリタのような設備も足りない町工場ではとても開発できませんし、インクだけを購入したくても売ってくれません。 ケーファーでは一般的にクロス社タイプと言われる細身の芯を使っているので、ジェットストリームの太い芯は 滑らか油性についてはここで手詰まり感があったのですが、思わぬところから抜け道を発見しました。三菱が形状違いのジェットストリーム芯を発売したのです。 最近の日本では、ボールペン数色とシャープペンを一本に詰め込んだ複合ペンが人気があり、各社から色々な種類が出ています。 その複合ペンに使われる芯は、一本に何種類も入れるわけですから、当然細身で短い芯が使われます。 三菱ではこの売れ筋の複合ペンの分野で、同社の看板製品であるジェットストリーム版を出せば相当売れると踏んだのでしょう。 通常の太いジェットストリーム芯とは異なる、細身で短い4Cタイプのジェットストリーム芯を開発し、複合分野に投入してきたのです。 この4C芯というのは、4色ボールペンに使われていたことから来た俗称で、細く短い金属製で、プラのPP芯のようなバネを止める為の出っ張り(クリンプ)のついていない形状をしています。 多色ペン、複合ペンでも、価格の安いものにはPP芯が使われていて、この4C芯は比較的価格の高めの複合ペンに使われます。 三菱ではこの4Cタイプのジェットストリーム複合ペンをジェットストリームプライムと名付け3,000円から5,000円で販売を始めました。 いくらジェットストリームが売れていると言っても1本100円なので、利益率の高い分野に人気の芯を投入してきたのですね。 この4C版のジェットストリームが出たというニュースを聞いた時に、この芯なら工夫次第でケーファーに組み込めるなとピンと来たのです。 と言うのも以前にも、キリタの母体の桐平工業が作っている回転メカのOEM製品に、4C芯を使用したいという要望があって、そのためのアタッチメントを作ったことがあったのです。 キリタの回転メカは、いわゆる米国クロス社が昔から使っている細長い形の芯(以下クロス芯)を動かす専用メカになっています。 クロス芯も世界で相当量が流通していますが、4C芯はさらに多くのメーカーが同規格で作っていて、入手がしやすい利点があるのです。 4C芯にはクリンプと言うバネを留める突起部がないため、その長さを延長して、最後にクロス芯と同じプラのネジ部を付ければ、クロス芯とほぼ同じ形になります。 4C芯がちょうど入る細いパイプを用意し、一定の長さで切断します。 そこに刺した4C芯が決まった深さで止まるように、所定の位置に、内側に向けてぐるっと突起を付けます。 さらに芯が抜けないための内側への突起(ダボ)を付け、芯が入る反対側にプラのネジ部を付けると、アタッチメントの出来上がりです。 ただもう一つ問題が有りました。芯の先端部分の太さがクロス芯と4C芯では微妙に違うのです。 クロス芯の先端部の外径が 2mmなのに対し、4C芯のそれは 2.25mm。 口金の穴径はクロス用にぴったりに作っているので、4C芯にすると穴が小さすぎて芯が出てこないのです。 そこでアタッチメントセットには、4C芯が通る大きさの先端穴を空けた口金を一緒に同梱することにしました。 ケーファーの場合は、先端の口金はネジ式で取り外せる構造になっているので、セットを購入いただいたお客様には、芯をアタッチメントに交換するだけでなく、口金も専用の物に交換して使用する仕様です。 そのため、このアタッチメントはケーファーの専用で、他の製品を使用している人が使用しようとしても、芯の先端がペン先から出てこないので使用できません。 他の多くの製品ではデザイン上、構造上の観点から口金が外れない仕様になっているので、そこは御了承をいただいています。 ただ実際には僅か0.2mm程度穴を拡げれば使えるので、ケーファー用のアタッチメントを購入して、自己責任で改造している方もいるようです。あくまで自己責任ですよ。 ジェットストリームファンはかなり多いようで、ケーファーの購入時にこのアタッチメントを同時に購入する方は、非常に多くなっています。 このセットにはアタッチメント、ジェットストリームプライム芯、交換用の口金が入っていますが、芯だけの販売はしていません。 この芯は普通に街中の文具店で売っていますし、キリタで三菱の芯を仕入れて売るのもなんなので、最初の芯が無くなったら、ご自身で芯だけを購入いただいています。 中には、このアタッチメントの登場でケーファーがより完璧になったと言う方も居たりはしますが、私としてはこの意見には複雑な心境です。 この滑らか過ぎる芯は、仕事中のメモの走り書きなどには良いので私自身も使っていますが、なんかツーっと滑りすぎる気がしています。 「止め」を意識してしっかりと書きたい時は、従来の油性芯でボールの転がる感触を感じながら書く方が、個人的には好みです。(今の油性は昔の油性に比べると、かなり滑らかになっていますけどね。) 真鍮仕上げ これは本体軸のラッカー塗装や細かい部品のメッキをしないで、素材の 真鍮のままで組み立てを行った製品です。 ただし、ケーファーの本体軸は既製品サイズの真鍮パイプを切断した もので、天金などの小部品は真鍮棒材からの挽き物削り出しです。 それぞれの作りが異なるので表面の風合いも異なり、本当にそのまま 組み立てると部分部分で仕上がりがバラバラになってしまいます。 そこで、塗装などはしないのですが、表面をペーパーやすりを使って 一旦均一に荒らして、ヘヤーラインという細かい線の入ったマット調 仕上げにしています。 このヘアーラインマットを入れる作業は、職人の加川が一本一本 手作業で行うため、メッキや塗装が無いと言っても、手間のかかり 具合は通常品以上になります。 そのため、価格は通常品よりも少し高めの設定になりました。 ケーファーは、大部分は真鍮製なのですが、クリップだけは亜鉛 ダイキャスト製になっています。 これは成型上がりの状態では灰色なので、そのままではボディの真鍮と マッチしません。 そこでクリップについては、金メッキをして真鍮の金色と合わせた バージョンと、クリップは無しでデスクペン風にしたバージョンの 両方を選べるようにしました。 さらに、クリップ無しバージョンをデスクペンとして使用する人の ために、オプションでペンスタンドも用意しました。 これは直径20mmの真鍮棒をぶった切って、中心にペンを挿す穴を空け、 キズよけにビニールチューブをはめただけの物ですが、これも職人 加川の手製で、注文のあった時にだけ1個1個作成しました。 このケーファー真鍮仕上げでは、1つ面白い試みをしてみました。 3年前に個人の名入れに購入した彫刻機があるのですが、その機械を 使うと、本体軸の全体に柄を彫ることができるのです。 そこで試みとして植物の葉が茂った柄を、ケーファーの真鍮本体軸に ぐるっと全面に彫ってみました。 先ず、イラストレーターというアプリケーションソフトで作成した データを、彫刻機を動かすためのアプリに転送して変換します。 そのプログラムを使って彫刻機を動かすと、本体パイプの全面に柄を 掘る事がで来ます。 この柄彫刻版はかなり綺麗に彫れて評判も良かったのですが、現在は 注文を受けていません。 かなり機械に負荷がかかるのと人手不足もあり、中断していますが、 いずれ余裕が出たら再開することもあるかもしれません。 最後に 傾きかけた会社の窮余の一策として企画されたケーファーは、開発中の困難をいくつも乗り越え、発売後もお客様の声を参考に多くの改良を加えてきました。 これからも改良と進化を続けて行くことと確信しています。 |
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