ペンに付いているクリップのお話しをしたいと思います。
ここで言うクリップとは、書類やシャツのポケットにペンを挟むための金具のことです。
まず、クリップを素材別に分類し、それぞれの特徴を簡単に説明します。
その後、プレスクリップの製造工程を、数回に分けて解説し、最後に別ページでクリップの専門会社である東京金属工業(株)を紹介します。
クリップの種類は、素材で大きく分けて、
1)プラスチックによる成型品、
2)鉄を使ったプレス品、
3)鋳物などを使った鋳造品、
4)針金を使った折り曲げ品、
或いはそれらの組み合わせ品に分類されます。
1)プラスチックによる成型品、
100円から500円位までの事務用のボールペンに多く使われるクリップは、多くの場合、クリップ単体ではなく、本体との一体成型で作られます。
以前は本体がプラスチック製の事務用ボールペンでも、クリップだけは金属のものが使われていました。
それがプラスチックの成型技術が向上し、現在では、本体とクリップの一体成型で作られるようになりました。
しかも本体の内側には、ノックのための機構部であるカムの内側の造形が彫り込まれるようにまでなっています。
本体とカムとクリップを一度の射出成型で作り、大幅なコストの削減が可能になっているのです。
ただ、プラスチックのクリップには適度のバネ性がありますが、金属クリップほどの強いバネ性はありません。
そこで書類やポケットからの落下を防止のために、本体の、クリップの先端付近にあたる部分にも、突起を出すように型を作っておいて、クリップとの噛み合わせで補強したり、あえてクリップだけは別成型にして、よりバネ性の強い種類のプラスチックを使ったりすることもあるようです。
プラスチックのクリップについては、ここ数年で劇的な変化が起こっています。
バインダークリップと呼ばれる、大きく口を拡げるタイプのものが業界を席巻し、事務用のプラスチックペンのほとんどがそれに切り替わってしまったのです。
バインダークリップとは、本体と一体成型をしないクリップをプラで作り、本体とのつなぎ目部分に、金属製の小さな板バネをはめ込むことにより、洗濯ばさみのように、大きくクリップが開くようにした物です。
その操作性が、書類を挟むのに使いやすいと言うことで、最初に開発したゼブラをはじめとする大手がこぞって採用し、瞬く間に広がりました。
実はこのバインダークリップをゼブラからの依頼で生産したのは、金属クリップのトップメーカーである東京金属工業(株)という会社で、プラのクリップに押さ続けていた苦しい状況を逆転する画期的な商品だったのです。
(東京金属については、後で詳述します。お楽しみに。)
2)金属板からのプレス成型品
金属プレスによる成型は、今も世界で最も多く使われる製造方法で、ペンクリップの王道とも言うべき方法です。
作り方を一言で言うと、薄い金属の板を打ち抜いて、曲げて曲げて曲げて形を作っていくのですが、そこには多くの技術、ノウハウがあり、日本でも数社しか製造しているところがありません。
(キリタを含む日本の全ての筆記具メーカーは、その数社のクリップメーカーからクリップを購入しています。)
そのポイントの一つは、部品としてのバネを使わないで、素材そのものにバネ性がある金属を使っていることにあります。
「バネ性がある金属」とは、分かり易く言うと、薄い板にした時に強い「しなり」がある素材と言うことになります。
具体的には、ほとんど多くの場合は鉄を使い、まれに燐青銅を使うこともあります。(燐青銅は、銅と錫の合金に燐を加えたもの。)
さらに「焼き入れ」という、金属に熱をかけて硬くする技法などを使い、あのピンピンというクリップの独特の弾力性を出しています。
プレスによるクリップでは、ペン本体への取り付け方法で、リングタイプ、抱きタイプ、はめ込みタイプの3つの形状に分類されます。
1リングタイプは、クリップの根本部分が輪っかになっているタイプで、本体の組み立て時に、そのリングに本体部品に通して組み上げます。
組み上がった時には、そのリングは本体内部に隠れて見えなくなります。
2抱きタイプ(バンドタイプ)は、クリップがペン本体を抱きかかえるように横方向に羽を伸ばした形です。
ペン自体の内部に組み込まず、組み立ての最後に、上から本体に差し込んで取り付けます。
3はめ込みタイプ(箱タイプ)は、クリップの根本に引っかかりの突起を出しておいて、本体の外装の表面に四角い切り欠きの穴を開け、その穴にクリップをはめ込むタイプです。
仕上がり時には、クリップ根本の突起は穴の中に隠れてスッキリします。
地面から草がにょきっと生えているように、ペンの本体からクリップが生えている感じになります。
プレスによるクリップの製造方法は、後ほど詳細を説明していきたいと思っています。
3)キャスト等を使った立体クリップ
薄い鉄板をプレスで曲げて作ったクリップでは、どうしても厚みがないため立体感・ボリュームが無く、形状的にも複雑な物が作れません。
そこで最近増えてきたのが、鉄以外で、ダイキャストなどの鋳物の成型品で作ったクリップや、厚い金属を切削加工して作ったクリップです。
「バネ性のない金属の固まりで形を作ったクリップ」というくくりと考えてください。
鋳物の場合は、まず最初に原型を作り、それを元に金型を作ります。
そして金型の中に溶かした金属を流し込んで、固めて形にします。
これらのクリップの特徴は、形の自由度が高く、ボリューム感のある形が作れることです。形のバリエーションが広がり、洒落たクリップができます。
ただしバネ性がないので、そのままペンに取り付けても、書類を挟んだりシャツの生地にしっかり挟まったりすることができません。
そこで、ペンとの取り付け部分に、別部品のバネを仕込んで取り付けることが必要になります。
バネ性のない鋳物などで作ったクリップを、ペンに取り付ける際には、鉄からプレスで作ったクリップの上に乗せるか、クルクル巻いた普通のコイルバネを仕込むことが主な方法となります。
ただこれらの方法はここ数年で増えてきた方法で、各社が色々な方法を試行錯誤しながらアイデアを競っている状態です。
中にはデザイン性だけを追求し、バネを使わずにそのままペンに付けてあり、ろくに機能しないクリップのペンもあったりします。
キリタのケーファーボールペンでは、プレス製の板バネクリップの上に鋳物を組み合わせて製作しています。
コイルバネを使って鋳物クリップをペンに取り付けたペンでは、ペンに対して横方向に、クリップがガタガタするペンがよくあります。
このようなものは本体にキズが付いたりもしますので、あまりお奨め出来ないですね。一流メーカーでは、いかにガタつきを無くすか、工夫しています。
この鋳物などを使った立体クリップは、今後も増えていきそうな気がします。各メーカーの新製品が出ると、まず着目するポイントですね。
4)針金を使った折り曲げ品
最後にロット線を使ったクリップを紹介してこの校を終わりたいと思います。
ロット線とは要するに細長い鉄の棒のことで、針金の太いものと思ってください。
1〜2mmの焼き入れ前のロット線を曲げて形を作り、その後に焼きを入れることによって、針金のように手でくねくね曲がらないように硬化させます。
高級感は出ませんが、デザイン次第でラミー社の「サファリ」のようなポップでお洒落な感じのクリップになります。
また、トンボから出ている「エアープレス」に使われている針金クリップはバネの利かせ方のアイデアが秀逸です。
ペンを正面に見て、ロット線の先端をペンの側面から横方向に突き刺し、そこから直角に曲げてペンの縦方向へロット線をクリップの形に延ばしていきます。
最後に、反対側の側面から線をペンに突き刺して終わっているのですが、その突き刺す場所を最初の場所からずらしたところにしているのです。
同じ穴の両側にロット線の両端を刺すと、穴を軸にしてクリップがレバーのようにスムーズに廻りますが、元の位置に戻るためのバネ性がありません。
線の両端をずらすことによってレバーのように回転しないで、持ち上げても少ししか持ち上がらずに元に戻ろうとするのです。
おもしろいアイデアですね。
プレスクリップの製造工程へ
ペンクリップの東京金属工業
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